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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)190号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一) 本件考案が「ノズル内装枠16にはホルダー8における挿着孔7中で前記給液路6に連通する中間位置の広い範域に対向する状態に小径部11を形成して、この小径部11の先端から中心軸線に向い複数の均等な通〔液〕孔13を均等角度関係に形成する」との構成(「本件考案の特定構成」)を構成要件の一つとし、かつこの構成を有することにより「緯糸噴射用の圧力液体を、ノズルからの噴射に先立つて予めノズル軸線をめぐる前後方向の環状室内においてまず全周範域にわたり均等な円筒状に整流し、次いでこれを全周にわたる均等分布状態の通液孔により均斉な圧力並びに流速のもとに集約させ」るという作用効果(「本件考案の特有の作用効果」)を奏するものであることは、当事者間に争いがない。

原告は、第一引用例中には、本件考案の特定構成及び特有の作用効果が開示されている旨主張する。

成立に争いのない甲第一号証によれば、本件考案の実用新案公報の「考案の詳細な説明」には、本件考案の特定構成及び特有の作用効果について、(イ) ホルダー8に対してその取附孔(又は挿着孔)7を貫通する状態で固定されたノズル内装枠16が上記取附孔7の中で給液路6に連通する中間位置の比較的広い範域に有している小径部11とそれに共軸的な挿入孔12とによつて形成する管状部の先端寄り全周に、複数の通液孔13を均等角度関係に形成する(本件考案の実用新案公報第一欄第三七行ないし第二欄第一二行)、(ロ) 給液管10から給液路6を経て適時に圧送されてくる噴射用液体を、ホルダー8の取附孔7とノズル内装枠16の小径部11とによつて形成されたノズル軸線をめぐる前後方向の環状室内の全周範域にわたり拡延させつつ前進させ、均等な円筒状に整流した後、右液体を全周にわたる均等分布状態の通液孔13の全数から均等均斉な圧力並びに流速のもとに集束させる(前同第二欄第一八行ないし第二四行、第三二行ないし第三八行)、(ハ) 更に、前記液体を「漸次狭縮する内外両円錘状勾配面間において効果的に増速して噴射させつつこれにより緯糸をその全周から均斉な集約力のもとに捕捉したまま射出力の減衰による低下を適正に防止して所要の緯入れを確実に行なうことができる」(前同第二欄第三八行ないし第三欄第四行)旨記載されていることが認められ、以上の記載からすると、本件考案の特定構成においては、ノズル内装枠に小径部(その小径部はそれと共軸的な挿込孔と共に管状を呈する。)を設け、その小径部は、ホルダーの挿着孔(又は取附孔)が給液路に連通する位置で、該挿着孔の中で広い範囲に対向し、かつ該挿着孔との間に空隙を生じるような状態で形成されており、その結果、ホルダーの挿着孔とノズル内装枠の小径部とによつて環状室が形成されるものであり、該環状室の中心軸線の前後方向の長さは給液路の径よりも大きく、しかも、前掲通液孔は該環状室を形成する小径部の先端に位置することから、給液路と通液孔とは直接対向しない位置関係にある構成というべきである。

原告は、本件考案の実用新案登録請求の範囲中には、小径部の前後巾部分とはどのような長さをいうのかについて何らの記載もなく、本件考案において通液孔13が給液路6と直接対向するか否かを一義的に決めることはできないと主張する。しかし、前掲甲第一号証によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲中には、小径部の前後巾部分の長さ(小径部の中心軸線の前後方向の長さ)につき具体的な限定がなされていないものの、小径部11を、ホルダー8の挿着孔7中で「前記給液路6に連通する中間位置の広い範域に対向する状態に」形成する旨規定されていることが認められ、これに、本件考案に関する前掲「詳細な説明」の記載を併せ解釈すれば、環状室(したがつてそれを組成する小径部)の中心軸線の前後方向の長さは給液路の径よりも大きいものとみるのが合理的であり、また、このことと通液孔の小径部における位置を総合すれば、給液路と通液孔とは直接対向しない位置関係にあると理解すべきであるから、原告の主張は採用することができない。

以上に対し、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、(イ) 「第8図及び第9図を参照して噴射ノズルないしジエツトノズル19を説明する。それは内側環状室53に接続しているメインチユーブ52を有する。環状房室54は、一連の半径孔59によつてこれとつながつている内側環状室53を取囲んでいる。環状房室54は、これの壁に適当に固定されたバンド55によつて閉じられている。ニツプル56はバンド55に溶接されていると共に、ジエツトノズル19に圧縮空気を供給するようたわみ管51に接続されている」(第四欄第三二行ないし第四二行)、(ロ) 「圧縮空気がニツプル56に供給されると、環状房室54は圧縮空気を同室の全周のまわりに均一に運ぶ。そこから、圧縮空気は、内方に、孔59を通つて内側環状室53に達し、中空のニードル57と供給管52の間の環状狭路を通る」(第四欄第五二行ないし第五八行)と記載されていることが認められ、この記載及び別紙図面(二)Fig8及びFig9からすると、第一引用例記載のものは、流体供給路を形成するニツプル56をバンド55に取付け、メインチユーブ52の基端部側にメインチユーブ52の小径部とバンド55により環状房室54を形成し、この環状房室54の内周壁部(小径部)に円周方向等間隔に配設された半径孔59が形成され、環状房室54は一連の半径孔59によつて同室と連通する内側環状室を取り囲む構成というべきものである。そして、第一引用例記載のもののこの構成を前述した本件考案の特定構成と対比すると、第一引用例記載のものにおいては、半径孔は環状房室の内周壁部(小径部)に円周方向等間隔に設けられていて、少なくともその一個が流体供給路を形成するニツプルと直接対向する位置関係にある構成となつており、本件考案の特定構成において環状室に設けた通液孔が給液路と直接対向しないように設けられている点は第一引用例には示されていない。そして、前述のとおり、本件考案は、この特定構成を有することにより本件考案の特有の作用効果を奏することができるものであるのに対し、第一引用例記載のものは、そのような特定構成を有しない結果、流体を「全周範域にわたり均等な円筒状に整流」し、「均斉な圧力並びに流速のもとに集約させる」という作用効果を奏しえないものであることが明らかである。

したがつて、第一引用例中には本件考案の特定構成について開示されていないから、その特有の作用効果は期待しうべきもないとした審決の判断は正当であり、第一引用例中に右特定構成と特有の作用効果が開示されていることを前提として、本件考案が第一引用例記載のものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるとする原告の主張は、本件考案と第一引用例記載のものとのその余の相違点について判断するまでもなく理由がない。

(二) 第九引用例には、「給水管26付ケーシング10の環状室11に、周方向に等間隔に配設された放射状孔16により内外側を連通させたコンテナ14を設け、前記ケーシング10及びコンテナ14に、それらを貫通し、その長さ方向の位置を調節可能に設けたガス供給管17の端部にノズル23を設け、その先端部と前記コンテナ14に設けたスロツト部材28との間にオリフイス25を形成した流体の拡散放出装置」が開示されていることは、当事者間に争いがない。

原告は、審決が、第九引用例には、「本体ケーシング10(本件考案のホルダーに相応する)とガス供給管17とコンテナ14との間に環状室11(本件考案のノズル内装枠の小径部により構成される環状室部分に対応する)を給水管26(本件考案の給液路に相当する)に比べて充分幅広に形成し、同環状室11の先端部分から中心に向う複数の放射孔16(本件考案の通〔液〕孔に相当する)を均等な角度関係に形成することについての開示はなされている」として、第九引用例記載のものが本件考案の特定構成と全く同一の構成を有することを認定しながら、これが「本件考案とは全く対象の異なる流体の拡散装置であつて、ガス流(本件考案が送出対象とする緯糸に一応対応する)を間欠的に包持送出させるべき技術的思想を全く欠如するばかりでなく、その具体的構造も本件考案とは著しく相違し、本件考案に特有の前示のような作用効果を期待しうべくもない」と判断したのは、事実誤認であり、また理由齟齬ないし理由不備の違法を犯したものである旨主張する。

しかし、審決が右箇所において、第九引用例記載のものを「流体の拡散装置」とした点について検討するに、審決が第九引用例記載のものの技術内容を「流体の拡散放出装置」と認定していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一一号証によれば、第九引用例に、この発明は、圧力流体と圧力ガスのdiffusing and injecting devices(第一項第三行)に関すると記載されていることからみて、右にいう放出とは、injectingすなわち噴射を意味することが明らかであるから、審決は、本件考案との対比に当たつても、第九引用例記載のものをこのような流体の拡散噴射装置と認定したものというべく、これを殊更に噴射を行わない単なる拡散装置にすぎないものとして認定したとすることはできない。以上のように、第九引用例記載のものが流体の拡散噴射装置であるとしても、前掲甲第一一号証によれば、第九引用例記載のものは、圧力混合装置、特に圧力流体と圧力ガスの拡散及び噴射装置に関するものであつて、ガス供給管から供給されるガスと給水管から供給される水又は他の液体との完全な混合、拡散を確実に行うことをその技術的思想とするものであつて、噴射用圧力液体により緯糸をその全周から均斉な集約力のもとに捕捉し、所要の緯入れを確実に行うという本件考案の技術的思想は存在しないというべきである。それ故、審決に事実誤認は存しない。

次に、環状室を例にとつても、本件考案においては、前述のとおり、給液路6を備えたホルダー8に対してその挿着孔7を貫通する状態で固定されたノズル内装枠16が給液路6に連通する中間位置で給液路より広範域に給液路と対向する状態で小径部11を形成し、この小径部11とホルダーの挿着孔7とによつて環状室を形成しており、小径部11の先端から中心軸線に向い通液孔を設けるのに対し、前掲甲第一一号証によれば、第九引用例記載のものでは、放射孔16を備えたコンテナ14はケーシング10に貫通状態で固着しているものではなく、また、環状室11は、中心軸線を共通にするが、底面直径を異にする円〓体であるコンテナ14とガス供給管17とを螺合したもの及びケーシング10によつて組成され、したがつて、環状室11は直径を異にする二個の円環空間部分から成り立つており、しかも、この環状室11が給液路に連通する位置において、その内周壁部のうちガス供給管17で構成される部分は給液路と対向しない構成が採られているから、環状室を構成するうえでの具体的手段が本件考案と相違することが明らかであり、審決は、このことを前提として、第九引用例記載の環状室11が「(本件考案のノズル内装枠の小径部により構成される環状室部分に対応する)」として、本件考案との対応関係を示し、これに引続いて「その具体的構造も本件考案とは著しく相違し」と判断したものと理解される。したがつて、審決が環状室を含め本件考案と第九引用例記載のものとの構成を対比するに当たり、括弧書きで「相応する」、「対応する」、「相当する」という表現を用いたのは、両者の構成部材の対応関係を明らかにしたに止まるもので、両者の構成が同一であると認定しているのではないから、これに続いて「その具体的構造も本件考案とは著しく相違し」と判断したことに齟齬があるとはいえない。

また、審決が第九引用例記載のものは、「本件考案とは、全く対象の異なる流体の拡散装置であつて、ガス流(本件考案が送出対象とする緯糸に一応対応する)を間欠的に包持送出させるべき技術的思想を全く欠如する」と説示したうちの括弧書き部分も、その文章の前後関係から判断して、前同様に、送出対象が本件考案は緯糸であるのに対し、第九引用例記載のものはガス流である点において両者が対応関係にあることを示したにすぎず、両者の送出対象が相等しいとした趣旨ではないことが明らかであるから、審決が前記括弧書きの前の説示部分で第九引用例記載のものは本件考案とは全く異なる流体を対象とすると説示しているからといつて審決の判断が矛盾しているとはいえない。

以上の次第で、審決が第九引用例に開示されたものの技術的思想及びその基本的構成を誤認し、かつ本件考案と第九引用例記載のものとの対比判断に当たり理由齟齬ないし理由不備の誤りを犯したことを前提として、本件考案は、第九引用例記載のものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものとはいえないとした審決の判断を攻撃する原告の主張は、前提において失当というべきである。

(三) 更に、原告は、本件考案は、第一引用例及び第九引用例記載のものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであると主張するが、その理由とするところは、第一引用例記載のものは最終噴口径の調節機能を備えていない点を除き、第九引用例記載のものは噴射される対象がガス流である点を除き、それぞれ、本件考案の特定構成と特有の作用効果を有していることを前提とするものであるところ、第一引用例記載のものについても、また第九引用例記載のものについても、原告の前提とする事項はすべて理由がないことは前記(一)及び(二)において判断したとおりであるから、原告の右主張も採用することができない。

(四) 以上のとおりであるから、請求人である原告の主張する理由と証拠では本件考案の登録を無効とすることはできないとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法の点はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

緯入れ用圧力液体供給源からの給液路6とこの給液路6に直交状態を呈して連通する円形挿着孔7とがあるホルダー8に、その挿着孔7に対してノズル内装枠16を貫通状態に固着すると共に、このノズル内装枠16には上記ホルダー8における挿着孔7中で前記給液路6に連通する中間位置の広い範域に対向する状態に小径部11を形成してこの小径部11の先端から中心軸線に向い複数の均等な通〔液〕孔13を均等角度関係に形成するほか、別にこのノズル内装枠16における基端寄りの部分からは、軸線位置に緯糸導通孔18があるほか先端寄りの部分には前記ノズル内装枠16における通液孔13の全数に内方から連通する部分を基点として漸次先端方へ狭縮するテーパー附きの外向き誘導面19があるノズル20を挿込孔12に対し螺合部21において進退自在に挿着し、更にこれに対して既記ノズル内装枠16には前記小径部11の先端における通液孔13の内向開放端に連続して先端方へ狭縮するテーパー附きの内向き誘導面14を既記ノズル20における外向き誘導面19に対向させて形成したことを特徴とする緯糸射出装置。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙 (一)

<省略>

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